
ドラキュラ
朗読で味わう

ブラム・ストーカー(1847 – 1912)
1897年
ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』はゴシックホラーの金字塔。トランシルヴァニアからロンドンへ、吸血鬼ドラキュラ伯爵と人間たちの死闘が書簡形式で鮮やかに描かれます。その確立した吸血鬼像は、今もなお多くの作品に影響を与え続けています。
若きイギリス人弁護士、ジョナサン・ハーカーの旅が始まります。西から東へ。文明の世界を離れ、古い迷信が息づく土地へと、汽車は進んでいきます。[1][2]
旅籠に着いたのは、聖ゲオルギウスの日の前夜でした。「今夜、時計が零時を打てば、世界中の悪しきものが力を得るのですよ」。[3] 心配した老婆が、私の首に十字架をかけてくれました。[4] 周りの人々は私を見ると十字を切り、指をさします。[6] 悪魔、地獄、人狼…そんな不吉な言葉が聞こえ、依頼人であるドラキュラ伯爵のもとへ向かう私の心を、得体の知れない不安が覆っていきます。[5]
ボルゴ峠で待っていると、一台の馬車がやってきました。御者の燃えるような赤い瞳が、闇の中で光ります。馬車が走り出すと、同乗者が囁きました。「死者は速く駆ける」。[8] その言葉に応えるように、どこからか苦しげな遠吠えが響き渡り、やがてそれは恐ろしい狼たちの合唱へと変わりました。[9] 月の光が、私たちを取り囲む狼の輪を照らし出します。[10] その時、御者がすっと長い腕を振るうと、まるで目に見えない壁に阻まれたかのように、狼たちは静かに後ずさっていくのでした。[11]
やがて馬車は、広大な廃城に止まりました。黒い窓が並び、崩れた城壁が月明かりに不気味な影を落としています。[12] 気づくと馬車は闇に消え、私は巨大な扉の前に一人取り残されていました。長い沈黙の後、扉がきしむ音を立てて開きます。そこに立っていたのは、全身黒ずくめの背の高い老人…ドラキュラ伯爵でした。[13]
「我が家へようこそ。ご自身の意志で、自由にお入りなさい」。[13] 差し出されたその手は、氷のように冷たく、万力のような力で私の手を握りしめました。それはまるで、生きた人間の手とは思えませんでした。[14]