
罪と罰
朗読で味わう

フョードル・ドストエフスキー(1821 – 1881)
1866年
ドストエフスキーの『罪と罰』は、若きラスコーリニコフの心理と葛藤を描く傑作。罪悪感と赦し、人間存在の根源を深く問い、今なお読み継がれる普遍的な物語です。
うだるように暑い、七月の初めの夕暮れ時。ひとりの青年が、サンクトペテルブルクの屋根裏部屋から、ためらうようにゆっくりと通りへ踏み出しました[1]。街はひどい暑さと息苦しさに満ち、漆喰やレンガの埃が舞っています[4]。
彼は貧しさに押しつぶされていましたが、近頃はそんな現実的な悩みなど、どうでもよくなっていました[2]。頭の中は、あるおぞましい考えにすっかり取り憑かれていたのです。「『あんなこと』を企んでいるくせに」と彼は奇妙な笑みを浮かべます[3]。それなのに、ひどく目立つみすぼらしい帽子といった、些細なことが気になって仕方がありません[5]。
古い質屋の老婆が住む建物までの、七百三十歩。一歩、また一歩と進むごとに、胸の高鳴りは激しくなっていきます。これは、あくまで計画の「予行演習」なのです[6]。
暗い入り口に足を踏み入れると、ひとりの老婆が黙って彼を見つめていました。鋭く、意地悪そうな目をした、小柄でしなびた老婆です[7]。父の形見である古い銀時計を老婆が検分する間、彼は部屋の隅々まで、油断なく観察します。家具の配置、老婆が下げている鍵束、そして…「その日」も、きっと今日のように太陽が照りつけるのだろう、とふと思いました[8]。
アパートを出た途端、たまらない嫌悪感が彼を襲います。ああ、なんておぞましい!自分の心に芽生えたこの残忍な考えを、彼はどうしても振り払うことができないのでした[9]。