
君主論
解説で学ぶ

ニッコロ・マキャヴェッリ(1469 – 1527)
1532年
君主論は、権力の獲得と維持に関する冷徹な洞察で、政治思想に革命をもたらしました。その実践的なリーダーシップ論は、現代にも通じる普遍的な教訓を与え、今なお多くの議論を呼びます。
リーダーの立場にある人なら、一度は考えたことがあるかもしれません。「人に好かれるのと、恐れられるの、どちらが良いんだろう?」と。これは単なる処世術の話ではなく、500年以上前にマキャヴェッリが名著『君主論』で突きつけた、政治の核心を突く問いなんです。[338]
彼はこう結論づけます。両方を兼ね備えるのが理想だが、それは難しい。もしどちらか一方を選ばなければならないのなら、「愛されるより恐れられる方が、はるかに安全である」と。[338]
なぜ、こんなにも冷徹な結論になるんでしょうか。それは、マキャヴェッリが空想や理想論を徹底的に排除し、「物事のありのままの真実」だけを見つめようとしたからです。[314] 彼は、それまでの思想家が「実際には見たこともない理想の共和国や君主国」を夢想してきたと批判します。[315] そして、「どうあるべきか」ばかり考えて「現に何が行われているか」を無視する者は、身を保つどころか破滅する、と警告しました。[315]
彼の現実主義は、辛辣な人間観に支えられています。人間とは、そもそも「恩知らずで、気まぐれで、嘘つき。臆病なくせに欲深い」生き物なのだ、と。[339]
だからこそ、愛のような脆いものに頼ってはいけない、というわけです。人々が示す愛は、いわば義務感の鎖で繋がれているようなもの。自分の利益のためなら、ためらいなく断ち切られてしまいます。しかし、恐怖は違います。「罰への恐れ」に根差した恐怖は、決して裏切ることがないのです。[341] この徹底した現実主義こそが、彼の思想の神髄なんですね。