
エチカ
解説で学ぶ

バールーフ・デ・スピノザ(1632 – 1677)
1677年
スピノザの「エチカ」は、神、自然、精神、身体を統一的に捉える画期的な哲学体系を提示します。幾何学的な厳密さで構築されたこの書は、自由意志の概念に挑み、存在の必然性を説くことで、今日なお深い考察を促します。理性によって真の幸福へと導く、時を超えた思索の旅をお楽しみください。
もし、あなたが信じている道徳の土台が、根本的な勘違いの上に成り立っているとしたら、どうしますか。私たちは普段、当たり前のようにこう考えています。「良いもの」だから、それを手に入れたいと願うのだ、と。つまり、対象に「善」という価値がもともと備わっていて、私たちはそれに自然と引き寄せられる、というわけです。
ですが、この常識がまったくの逆だとしたら?私たちが何かを「善い」と呼ぶのは、たんに私たちがそれを欲しがっているからに過ぎない、としたらどうでしょう。欲望が善に従うのではなく、欲望が善そのものを創り出している、という過激な考え方です。
17世紀の哲学者スピノザは、まさにこの点を鋭く指摘しました。「我々は何かが善いと判断するからそれを欲し、願い、熱望し、あるいは欲望するのではなくて、かえって我々がそれを欲し、願い、熱望し、あるいは欲望するから、それを善いと判断するのである」[492]。さらに彼は、「我々は、あるものを善いと判断するからそれを欲するのではなくて、反対に、我々がそれを欲するから善いと判断するのである。したがって、我々が忌避するものを悪いと判断する」[591]と続けます。
この言葉が意味するのは、絶対的な「善」や「悪」が世界のどこかに固定されているわけではない、ということです。私たちの道徳観や価値判断の根源が、実は私たちの欲望という、きわめて主観的な感情に基づいているのかもしれないのです。この洞察は、私たちの世界の見方を根底から揺さぶる力を持っています。