
功利主義
解説で学ぶ

ジョン・スチュアート・ミル(1806 – 1873)
1861年
ジョン・スチュアート・ミルによる『功利主義』は、「最大多数の最大幸福」を追求する倫理学の金字塔です。快楽の質を区別し、個人の自由と社会全体の幸福を両立させようと試みた本書は、現代社会における倫理的思考の基礎を築きました。
何が正しくて、何が間違っているのか。この道徳をめぐる根源的な問いについて、人類は二千年以上にわたり、最高の知性たちが激しい論争を繰り広げてきました[1]。しかし、驚くべきことに、古代ギリシャのソクラテスの時代から現代に至るまで、私たちの意見がまとまる気配は一向にありません[2]。なぜ、これほど議論は平行線をたどるのでしょうか。それは、ほとんどの道徳哲学が、全てのルールの土台となる「たった一つの絶対的な基準」を示せていないからです[13]。もし道徳の根っこに、誰もが納得する一本の揺るぎない原理があるか、あるいは複数の原理があるならどれを優先するかの明確な順番が決まっていれば、話は違ったはずです[14]。この混乱は、特に「正義」を考えるとよく分かります。「何が社会の役に立つか」という議論と同じくらい、「何が正義か」をめぐっても私たちの意見は激しく対立します[346]。国や文化が違えば正義の形も違い、一人の人間の中でも、その時々で正義の基準は揺れ動くものです[347]。しかし思想家ジョン・スチュアート・ミルは、この混沌の中に、ある驚くべき法則を見出します。実は私たち人類は、無意識のうちに、ある共通のモノサシをずっと使ってきたのではないか、と[16]。そのモノサシとは、「その行いが、人々の幸福を増やすか、減らすか」という視点です。功利主義を頭から否定する人々でさえ、その道徳観は、幸福という基準に大きく影響されてきたのです[17]。