
カラマーゾフの兄弟
朗読で味わう

フョードル・ドストエフスキー(1821 – 1881)
1880年
ドストエフスキーが問いかけた「カラマーゾフの兄弟」は、人間の魂の深淵に迫る不朽の名作です。信仰、自由意志、倫理といった根源的な問いを巡り、親殺しのドラマを通して人間の本質を浮き彫りにします。
尊敬を集めるゾシマ長老の庵に、カラマーゾフ家の父と息子たちが集まります。金と、一人の女をめぐる醜い争いを解決するためでした。しかし、父フョードルは、その場に着くなり、下劣な冗談と挑発を繰り返し、長男ドミートリーの激しい気性に火をつけます。怒号が飛び交い、息子が父を脅す、救いようのない光景。その混沌のさなか、すべての罵声が、ぴたりと止まります。
これまで静かに座っていたゾシマ長老が、ふいに立ち上がったのです[29]。弱々しい体で、しかし確かな足取りでドミートリーに歩み寄ると、おもむろに彼の前にひざまずき、その額を、深く、深く、床にこすりつけました[29]。誰もが息をのんだ、あまりに不可解な光景[14]。そのとき、次男イワンが氷のように冷たい声でつぶやきます。「一匹の毒蛇が、もう一匹を喰らう。お互い様ですよ」[35]。長老のこの謎めいたお辞儀は、これからドミートリーを待ち受ける、恐ろしい苦難を予見するかのような、沈黙の祈りでした[34]。