
赤き勇気の記章
朗読で味わう

スティーヴン・クレイン(1871 – 1900)
1895年
アメリカ南北戦争を舞台に、若き兵士の恐怖と勇気を描くスティーヴン・クレインの傑作。戦争の真実と人間の心理を深く掘り下げた、時代を超えて語り継がれる文学作品です。
冬の冷気が名残惜しげに大地を去り、退いていく霧の向こうから、丘を埋めつくす軍勢が現れます。来るべき戦の噂に、誰もが震えるように目覚める朝です[1]。その中に、ヘンリーという若い兵士がいました。彼は、戦いを歴史のページを彩る「真紅の染み」だと夢み、ギリシャ神話の英雄のような自分を思い描いて、母の必死の願いを振り切り、この軍へ志願したのです[4]。栄光とはほど遠い、母の別れの言葉が耳に残ります。「ヘンリー、この戦いではくれぐれも気をつけるんだよ。お前は大勢の中のちっぽけな一人なんだからね[5]」。門から振り返ると、母はジャガイモの皮の中でひざまずき、見上げたその顔は涙で濡れていました[6]。その記憶は、壮大な目的を抱いていた自分への、今も消えない羞恥となります。本当の戦争とは、食事と睡眠の合間に死闘が繰り返されるものだと信じていましたが[7]、入隊してからの数ヶ月は退屈な訓練ばかり。英雄的な幻想はとうに色褪せていました。そして今、戦闘が間近に迫っているという知らせが、恐ろしい問いを彼に突きつけます。自分は、逃げ出すのではないか?かつては自分の勇気を疑いもしなかったのに、戦場では逃げてしまうかもしれない、と不意に思い至ったのです[8]。自分を証明する唯一の方法は、炎の中へ飛び込んでみることしかない[10]。恐怖に苛まれた彼は、友人のジムに尋ねました。もしや君も、逃げ出すかもしれないと思うことはあるかと。ジムは率直に答えます。「もし大勢が逃げ出したら、おれも多分逃げるさ。でも、みんなが戦うなら、おれも戦う[9]」。その素朴な言葉が、ヘンリーにささやかな安らぎを与えました。この見えない恐怖に怯えているのは、自分一人ではないのだと。