
国富論
解説で学ぶ

アダム・スミス(1723 – 1790)
1776年
アダム・スミスの不朽の主著『国富論』は、近代経済学の基礎を築きました。分業や自由市場、"見えざる手"といった革新的な概念を提唱し、国の富の源泉を探求。その洞察は、出版から250年以上経った今もなお、世界中の経済思想に大きな影響を与え続けています。
社会はいかにして富を生み出すのか。その驚くべき秘密を解き明かすために、まずはとても小さくてシンプルなもの、一本の「ピン」に注目してみましょう。これは、経済学の父アダム・スミスが用いた巧みな思考実験です。[6]まず想像してみてください。ピン作りの専門家ではない一人の職人が、ゼロからピンを作ろうとしています。彼がどんなに一生懸命働いたとしても、一日に作れるのは、せいぜい一本。頑張っても二十本が限界でしょう。これが、専門的な道具も訓練もなしに、たった一人で仕事をこなす時の生産性の限界です。[6]
ところが、このピン作りという仕事を、たくさんの単純な工程に分解すると、景色は一変します。アダム・スミスは私たちを、ある小さなピン工場へと案内します。そこでは、たった十人の職人が働いていますが、仕事のやり方が全く違います。[8]一人が全てをこなすのではなく、作業が細かく専門化されているのです。「ある者は針金を伸ばし、別の者はそれをまっすぐにし、三人目がそれを切り、四人目がその先端を尖らせる。ピンの頭をつけるだけでも二、三の工程があり、それを取り付ける専門の職人、ピンを白く磨く職人、そして最後にそれを紙に包装する職人もいる」。このように、ピン作りという一つの仕事が、およそ18もの工程に分割されていたのです。[7]
この「分業」がもたらした結果は、まさに驚異的でした。それぞれの持ち場に特化した十人の職人たちは、力を合わせることで、なんと一日に4万8千本ものピンを生産することができたのです。[8]考えてみてください。一人では一日一本がやっとだった仕事が、十人で分業することで、一人あたり4800本作れる計算になります。[8][9]この生産性の爆発的な向上こそ、アダム・スミスが解き明かした「国富」の源泉でした。富を生み出す本当の秘密は、個人の能力をはるかに超えた、仕事の仕組み、すなわち「分業」にあったのです。[11][36]