
ノートルダム・ド・パリ
朗読で味わう

ヴィクトル・ユーゴー(1802 – 1885)
1831年
ヴィクトル・ユーゴーの名作『ノートルダム・ド・パリ』は、15世紀パリの壮麗な大聖堂を舞台に、醜いながらも心優しいカジモドと美しい踊り子エスメラルダの悲劇的な運命を描きます。身分違いの愛と社会の不寛容さを深く問いかける、ロマン主義文学の金字塔です。
1482年、祝祭に沸くパリ。自作の劇に大失敗し、今夜眠る場所もない一人の男が、凍える夜の街をさまよっていました。暖を求めてたどり着いたのは、グレーヴ広場。燃え盛るかがり火と、それを取り巻く群衆の間に、ぽっかりと空いた空間がありました。
そこで、ひとりの少女が舞っていました[42]。 あれは人間なのでしょうか。それとも妖精か、はたまた天使か。
古びたペルシャ絨毯の上で、少女は舞い、回り、めくるめくように渦を巻きます。その輝くような顔がこちらを向くたび、大きな黒い瞳が稲妻のような光を放つのです[43]。男は心を奪われ、魔法にかかったように見つめていました。
しかし、かがり火に赤く照らされた幾千もの顔の中に、ひときわ深く、踊り子を見つめる顔がありました[44]。ノートルダム大聖堂の助祭長、クロード・フロロ。その厳格で陰鬱な横顔は、暗く、何かに取り憑かれたような激しさで、少女の一挙手一投足を追い続けています。
やがて少女が連れた小ヤギに、タンバリンを叩かせて時刻を告げる、たわいない芸を披露した、そのとき。 鳴り響く拍手喝采を切り裂くように、不吉な声が響きました。 「あれは魔術だ[45]」 声の主は、他ならぬ助祭長でした。
一瞬で熱狂は冷め、魔法は破られます。男は、彼女がジプシーなのだと気づきますが、なおもその魅力から目が離せません。しかし、近くの窓から狂信的な女の罵声が浴びせられると、美しい幻は、跡形もなく消え去ってしまったのです。