
人間知性論
解説で学ぶ

デイヴィッド・ヒューム(1711 – 1776)
1748年
デイヴィッド・ヒュームの『人間知性論』は、西洋哲学に深い影響を与えた傑作です。人間はいかにして知識を得るのか、そして因果関係の根拠とは何かを鋭く問いかけます。知性の本質を深く洞察する本作は、現代においてもその輝きを失いません。
ビリヤードの玉がカツンと当たれば、もう一方の玉は転がり出す。私たちは当たり前のように、原因と結果を信じて生きています。しかし、この「当たり前」の感覚は、本当に論理で証明できるのでしょうか。哲学者のデイヴィッド・ヒュームは、ここに鋭い疑問を投げかけます。彼に言わせれば、私たちが経験から導き出す結論は、実は理性や知的な思考プロセスに基づいているわけではないのです。[119]
どういうことでしょうか。ヒュームはこう指摘します。過去の経験が私たちに確実な情報を与えてくれるのは、あくまで観察した「その特定の物」と「その特定の時間」についてだけです。[125] なのに、なぜ私たちは、この経験が未来にも、あるいは見た目が似ているだけの別の物にも当てはまると信じてしまうのでしょう。これこそが、ヒュームが私たちに突きつけた中心的な問いなのです。[125]
実は、過去の出来事から未来を予測するとき、私たちは無意識に大きな論理のジャンプをしています。過去にある原因がある結果を生んだからといって、未来も「必ず」そうなるとは限りません。経験から何かを推測する行為はすべて、「未来は過去と似ているだろう」とか、「似たような見た目には似たような力が伴うだろう」といった、証明不可能な大前提に依存しているに過ぎないのです。[145]
つまり、私たちが信じる因果関係という世界のルールは、確固たる論理ではなく、私たちの「習慣」が生み出した感覚なのかもしれません。この視点は、世界の根底を揺さぶる、知的でスリリングな問いだと言えるでしょう。