
リヴァイアサン
解説で学ぶ

トマス・ホッブズ(1588 – 1679)
1651年
トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』は、人間の本性と国家の起源を探る政治哲学の金字塔。万人の戦いを避け、平和を保つには強大な主権が不可欠と説き、現代思想に深い影響を与えました。
もし、私たちの社会から政府や警察、あらゆるルールが消えたとしたら、世界はどうなると思いますか。哲学者のトマス・ホッブズは、その光景を衝撃的な言葉で描き出しました。そこでは、産業は生まれず、文化は育ちません。航海も、快適な建物も、知識も、芸術も、文字も、社会すら存在しない。最悪なのは、常に暴力による死の恐怖に怯えなければならないことです。人間の生は、孤独で、貧しく、不潔で、野蛮で、そして短いものになる、と[516]。
なぜなら、人々を畏怖させる共通の権力がなければ、人間は「万人による万人に対する闘争」という名の戦争状態に陥るからです[513]。誰もがお互いを信じられず、常に奪い合う。そんな悲惨な状態から抜け出すために、ホッブズはたった一つの解決策を示しました。
それは、私たち自身の手で、巨大な「人工人間」を創り出すことでした[5]。国家、コモンウェルスです。ホッブズはこの強大な権力を持つ存在を、旧約聖書に登場する海の怪物になぞらえ、「リヴァイアサン」と呼びました。このリヴァイアサンは、不死の神のもとで、私たちの平和と安全を保障してくれる「死すべき神」なのです[713]。ホッブズにとって、絶対的な権力は単なる統治形態の選択肢ではありません。それは、誰もが誰をも敵とする恐ろしい現実を回避するための、唯一の道だったのです。